グラルファン登場
太田愛さんの脚本は、心が「柔らかく」なります。
冒頭から、グラルファンの世界へと吸い込まれてしまった。
天本英世さん演じるトマノ(戸間乃)老人も、時間の流れを緩やかにしてくれ、殺伐とした昨今のオアシスのような存在だった。
グラルファンに音楽を聞かせようとしていたトマノ老人と、陸上の世界での「夏」が終わった(100分の2秒の差)中学生の暁くんの出会いもホノボノとしたものであり、年は離れていても、お互いが尊敬しあえる旧知の親友のようだ。
グラルファンとは伝説の生き物。
人の心の古い大切な思い出を目の前に、そのまま蘇らせてくれ。
その思い出の風景の中に入ると、グラルファンと一緒に「扉」の向こう、思い出の世界に行けるそうだ。
3日後に、真夏だというのにキサラギ町は冬になり、雪が降り出した。
トマノ老人のカードに描かれた扉は、開いていた。
グラルファンに、扉の向こうの世界に連れて行ってもらおうとするトマノ老人。
「どうして、そんなに思い出の世界へ行きたいの。」と素朴な疑問を投げかける暁くん。
一歩間違えれば、現実逃避になってしまうからだろう。
トマノ老人の視線の先には、40年前の古い白黒写真が飾られていた。
トマノ老人と妻と息子の3人が映っていた。
しかも、5年前に妻を亡くしていた。
彼の過去はヴァイオリニストであり、グラルファンに聞かせていた曲が、唯一録音されレコードとして残っていたのだ。
グラルファンがこちらの世界に居る、ほんのチョットの間だけ時間が止まる。
現実の時間と思い出の時間と、2つの時間は一緒に流れる事は出来ないからだ。
遂に、グラルファンが姿を現す。
トマノ老人の過去が眼前に広がるが、彼は「あの時間を、もう一度生きる事は出来ない。」と躊躇。
「どんな一瞬も、一度きりです。」と自分に言い聞かせる。
暁くんも「だから忘れない。」、「本気になれる。」と共感したようだ。
ここで、グラルファンが大人しく戻っていれば、ウルトラマンの登場しない「ファンタジー」調の作品に過ぎなかった。
しかし、「TEAM EYES」では、ムサシ隊員が探し出した1冊の本「傳説 怪獣大事典 第十二巻」がグラルファンの存在を解明していたようだ(その本を手にしたアヤノ隊員が、暁くんに提示する場面があったが、この直後の「ムサシとアヤノが声を上げ、光から目を隠すカット。」は、前後の繋がりから見る限り、編集ミス?)。
文字通り、「優しく」コスモスに変身するムサシ。
グラルファンを戻すのに、「力」を貸しただけだった。
扉のカードは、暁くんの手に。
扉を開けたため、トマノ老人は、この世界から姿を消してしまった。
失ったものを後悔するより、それだけ大事なものを持っていた事に主眼をおけるように、とのメッセージを実感した暁くん。
「昔の良き思い出に捕らわれ、後ろを向いたままの人生だけでは、決して新しい良き思い出を生みだす事は出来ない。」との心の重要性、前向きに生きる事の大切さが、余計に感じられた内容だった。
「ウルトラの世界」の無限の奥行きを、改めて思い知らされた。
『ウルトラマンガイア』第29話「遠い町・ウクバール」に肩をならべる「名作」ですね。
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